東京大学 石川顕一研究室の研究テーマ

研究テーマ

光と電子の量子力学シミュレーション

電子は、分子の中で原子同士を結びつけ、化学結合や化学反応を担っています。
電子は、エレクトロニクスデバイスや生体中で情報を伝達し、植物の光合成においては光を化学エネルギーに変換します。
光が当たると電子は揺さぶられダイナミクスが始まります。
運動する電子からは新しく光が生まれます。

私たちの研究室では、光と原子・分子中の電子がお互いに及ぼす作用を、理論的に、量子力学にもとづいた第一原理計算で研究しています。

強レーザー場中の原子・分子

強レーザー場によって電子がゆすられ分子から飛び出す様子

強レーザー場によって電子がゆすられ分子から飛び出す様子

高強度のフェムト秒レーザーパルスに照射された原子・分子は、トンネルイオン化や高次高調波発生といった、きわめて非線形なふるまい(高強度場現象)をします。高調波のスペクトルやイオン化で発生する電子のエネルギーや角度分布からは、光によって引き起こされるアト秒(10-18秒)時間スケールでの電子の動きや、分子構造や化学結合の急速な変化に関する情報が得られます。

このように、高強度レーザーと原子・分子の相互作用は、超高速分光の新しいツールとして重要度が急速に高まっています。しかし、実験結果の解釈が難しいことが壁の1つで、理論がそれを支援し実験を先導することが強く望まれています。強レーザー場中では、多数の励起状態や空間的に広がったイオン化状態を取り扱う必要があり、電子は光と相互作用するだけでなく他の電子とも力を及ぼし合うため、そのシミュレーションは大きなチャレンジです。

私たちの研究室では、現実的な計算時間で正確にシミュレーションする新しい手法の開発に成功し、世界的にも注目されています。

フェムト秒レーザー、アト秒レーザーが明らかにする電子の動き

アト秒レーザーに照射された原子から2つの電子がまさに飛び出そうとする様子

アト秒レーザーに照射された原子から2つの電子がまさに飛び出そうとする様子

高次高調波発生や自由電子レーザーの技術が進歩したおかげで、フェムト秒からアト秒領域の紫外線・エックス線パルスを発生することが可能になりました。紫外線やエックス線に照射された原子や分子では、イオン化や内殻電子の励起が起こります。これまで、イオン化は一瞬で起こるものとして取り扱われてきましたが、アト秒レーザーが登場して、光が当たってから電子が飛び出すまで、時々刻々電子状態がどのように変化するかが関心の的になっています。さらに紫外線やエックス線によるイオン化や内殻励起の後、他の電子がどのように動くかを知ることは、放射線によるDNA損傷、光合成、太陽電池、化学反応などを理解する鍵となっています。

私たちの研究室で行っている理論研究や第一原理シミュレーションは、国内外の最先端の実験研究者からも注目を集めています。
共同研究を通して、実験結果の理解に貢献し新しい実験の提案も進めています。

がんの放射線治療用重粒子線

京コンピュータを使った重粒子線治療のシミュレーション

京コンピュータを使った重粒子線治療のシミュレーション

研究室の長期的な夢の1つは、個々の分子のイオン化から全身レベルまで総合的に、放射線生物効果を理解することです。光と電子の量子力学シミュレーションは、電子レベルの最初期過程を明らかにします。他方、マクロなレベルから理解する一環として、重粒子線の線量を評価する研究を理化学研究所(理研)と共同で進めています。

がんの重粒子線治療とは、重粒子線(炭素などのイオンを加速してできるビーム)を病巣に集中的に照射することによって、非侵襲に(切らずに)がんを治す最先端の治療法です。高度先進医療として急速に関心が高まっています。私たちは、重粒子線の輸送・反応過程をそっくりそのまま追跡するモンテカルロシミュレーションを用いて、線量を正確に計算する研究を進めています。また、ゲルやナノサイズの粘土粒子を原料として放射線治療の品質保証に使えるような新しい線量計を、理研と共同開発しています。重粒子線治療や放射線治療を実施している医療機関からも注目され、近い将来、線量計の提供を開始する予定です。